さとやまノート大地の芸術祭

里山でアートな夏旅を[後編] 古民家が芸術作品に。塩田千春「家の記憶」(大地の芸術祭作品)【新潟県十日町市】

2025.08.02

現在開催中の大地の芸術祭通年プログラム「越後妻有 2025 夏秋」。
作品の展示場所は、美術館や廃校、屋外など多岐に渡りますが、ぜひ訪れていただきたいのが空き家を使った作品です。
地元住民が協力して制作されたものが多く、今回のプログラムでは10カ所ほどの空き家作品をご覧いただけます。そんな空き家作品の中からひとつ、松之山エリアにある「家の記憶」をご紹介します。

廃校全体を使った人気作品クリスチャン・ボルタンスキーの「最後の教室」から車で2分の距離。アプリのマップやのぼり旗で、迷わず作品向かいの駐車場に到着しました。

中に入ると一気に変わる空気感。長さにして4km以上の黒い毛糸が縦横無尽に張り巡らされており、地元の人から集めたかつて使われていた生活道具などが編み込まれています。作家さんが集落の方と一緒に2週間ほどかけて制作したそう。窓からの光がこの作品を作りあげていると感じました。
塩田千春「家の記憶」(2009年制作)
塩田千春「家の記憶」(2009年制作)
この日、受付をしていたのは2009年の制作当時から作品に関わっている地元集落の方。「展示されている古道具はうちで昔使っていたもの。これは何に使う道具かわかる?」と気さくに話しかけてくれました。「この辺は4メートルくらい雪が降るからね。こうやって使うんだよ」と、こすき(除雪道具の一種)の使い方を再現!

「昔は囲炉裏があって、そこから出た煤で柱や天井が黒くなるけどそのお陰で家が傷まない。」木材が煤でコーティングされることで防虫・防腐効果があるようです。

おじさんが建物裏に洞窟があるから行ってみなと教えてくれました。家の裏に回ってみると、大人一人が入るのも難しそうな穴が。近づくと空気がひんやりしていて気持ちがいい!しかし、食料保存のためではなさそうとのこと。
後日、他の方に聞いてみると、この家ではかつて養蚕をしていたため、蚕のエサとなる桑の葉を保管していたのではないかとのこと。なお、雨露のついた葉を食べると蚕が下痢をするため、桑の葉の管理には工夫が必要だったようです。

空き家作品とは何か?単に「空いているスペースがあるから作品として使おう」ということではないのだと思います。集落や住んでいた人の歴史が刻まれた、そこにしかない唯一無二の場所。

もしかしたら、とっくに取り壊されていたかもしれないその家に、アート作品ができてスポットライトが当たる。これまで関わることのなかった人々との交流を生み、家を建てた時にはきっと全く想像もしていなかった形で生まれ変わる。それ自体が生きた作品。大地の芸術祭の醍醐味は空き家作品にあるのかも…などと思いを馳せました。

「建物前の斜面、きれいに草刈りされてますね」とおじさんに声をかけると、前日におじさんが暑いなか作業したそう。その労力を思えば草ぼーぼーでも気にしない人が多いのではと思いましたが、人を出迎えるのに「みったくない」というおもてなしの心が表れていると感じました。(みったくない…「醜い」「だらしない」「恥ずかしい」に近い?方言)

作品から50メートルほどの場所に小さな神社がありました。隣には樹齢500年という大きな杉の木。斜面から吹き上げる風が心地よく、足元の枯れ葉が太陽に当たってとーってもいい香り。

それぞれに異なる物語がある空き家作品。この夏、巡ってみてはいかがでしょうか。ちょっと面白い出会いがあるかもしれません。※開館日要確認

塩田千春「家の記憶」(大地の芸術祭作品)
所在地:新潟県十日町市松之山下蝦池658

休館:祝日を除く2025/4/26-11/9の平日、冬季
時間:10:00~17:00(10・11月は16:00まで)
料金:一般400円、小中学生200円(期間によっては作品鑑賞パスポートや共通チケットを販売)


大地の芸術祭総合ディレクター・北川フラムによるコラム
「美術は大地から」
「張り巡らされた黒糸が見えない記憶を蘇らせ、人間にとっての『家』の意味を問いかける。」
https://www.echigo-tsumari.jp/media/200407-shiotachiharu/

\「越後妻有2025夏秋」開催中!/
大地の芸術祭公式HP
https://www.echigo-tsumari.jp/

この記事をかいた人

みーやん

名物へぎそばの食べ比べに最近はまっています。 お出かけと猫が好き♪ 写真:「絵本と木の実の美術館」Hachi cafeのドーナツ